2005年03月06日

<SIDS>学会が解剖義務付け 診断基準を厳格化

 健康な乳幼児が原因不明で突然死する乳幼児突然死症候群(SIDS)について、小児科医らでつくる「日本SIDS学会」は5日、SIDSと診断する場合は解剖することを絶対条件とする方針を決めた。過失や虐待の「免罪符」とも指摘されるあいまいなSIDS診断に対し、遺族らの間では診断基準の厳格化を求める声が強まっていた。同学会は診断基準委員会を設置し、来年度中にも学会の「診断の手引き」を改訂する見通しだ。
 ◇「事故隠し」防止狙い
 厚生労働省によると、国内のSIDS診断例は98〜02年で、年間412〜285件に上っている。学会はSIDSについて「『やむを得ない場合』は解剖は不要」と定義している。この日、盛岡市内で開かれた第11回学会で、同学会症例検討委員会委員長の中川聡・国立成育医療センター手術集中治療部医師は「剖検(解剖)せずに他の疾患と区別してSIDS(の疑い)と診断するのは矛盾がある」と報告した。学会ではSIDSの対象年齢も、1歳以上の乳幼児はSIDSと診断しない国際的な流れを受け、従来の「2歳未満」から「原則1歳未満」に限定する見通しだ。
 SIDSは▽生前の病歴や健康状態▽死亡時の状況▽解剖――などによっても原因が分からない時につけられる診断名。しかし解剖の必要性を巡っては、「やむを得ない場合」は解剖を不要とする小児科医中心の旧厚生省研究班と、解剖を不可欠とする法医学者中心の旧文部省研究班で定義が割れていた。  その結果、解剖せずに「SIDS(の疑い)」と診断する例が多発。診断基準の統一に向けて02年度に厚生労働省が設置した研究班の報告書によると、95〜02年の8年間で、全国のSIDS診断例のうち、解剖した例はわずか32%にとどまった。都道府県別でも山梨、和歌山両県の0%から神奈川県の84.8%まで大きな地域差がある。
 解剖率が低い原因について、福永龍繁・東京都監察医務院長は、病院などで乳幼児が死亡した場合には医師法21条に基づく警察への異状死の届け出が少ないことや、死因を調べる監察医制度が東京や大阪など大都市に限られる問題点を指摘する。
 あいまいな診断を背景に、病院や保育施設がうつぶせ寝を放置した過失による窒息死などをSIDSと主張するため、遺族が損害賠償訴訟に踏み切るケースが後を絶たない。「病院でうつぶせ寝にされ死亡した」として、生後1カ月の乳児の両親が起こした民事訴訟で、東京地裁八王子支部は昨年4月、SIDSが死因として過失を否定した病院側の主張を退け、約4300万円の支払いを命じている。
 学会の診断基準の厳格化は、こうした遺族らの声を反映した形となった。SIDSをめぐる訴訟の原告を支援する「赤ちゃんの急死を考える会」の櫛毛冨久美事務局長は「『今さら』という感だが、ようやく一歩前進したと思う」と話している。
 ◇ことば=SIDS
 SuddenInfantDeathSyndromeの略。健康な乳幼児を突然襲う原因不明の死で、国際的に「生後1歳未満の乳幼児の突然死で、生前の病歴や健康状態から予知できず、死亡時の状況や精密な解剖検査によっても死因が説明できないもの」と定義。世界保健機関(WHO)の「診断名不明確及び原因不明の死亡」に該当し、国内では「病死」に分類されるが、「原因が分からない以上『不詳の死』に分類すべきだ」との意見もある。
 ◇遺族「まだ終わりでない」 解剖制度に課題
 「乳幼児突然死症候群(SIDS)の診断には解剖が不可欠」。日本SIDS学会が5日、解剖の義務付けを決めたことで、あいまいだったSIDSの診断基準厳格化に向け前進し始めた。ずさんな診断の根絶を目指す遺族からは、この日の決定を評価する一方で、「どれだけ精度が高い解剖が行われるかが問題だ」として、解剖そのもののレベルを上げるべきだとの声が出ている。
 学会の会場には、うつぶせ寝で子どもを失った東京都八王子市の司書、河野啓子さん(53)の姿があった。河野さんの長女志保ちゃんは生後1カ月の時、胃がねじれてミルクが腸に流れにくい病気と診断されて都立八王子小児病院に入院。治療のためうつぶせ寝にされていて急死した。病院はSIDSが死因としたため、河野さんは提訴。東京地裁八王子支部は昨年4月、「死因の判定は困難」としたが「窒息死でもSIDSでも継続的に観察していれば救命の可能性はあった」として、病院側の責任を認めた。
 娘のような死を少しでもなくしたいと、河野さんは判決後も活動を続けている。学会傍聴後、河野さんは「解剖が必要と認めたのはよかったが、それで終わりではない。きちんとした診断のためにはまだまだハードルは高い」と注文をつけた。
 「赤ちゃんの急死を考える会」によると、SIDSを巡る裁判で、同会が把握している50以上の訴訟のうち、原告側の勝訴確定は5例程度に過ぎない。その背景には、解剖が義務づけられていないことのほかに、解剖内容のずさんさもある。
 02年2月に香川県の無認可保育施設で1歳2カ月の男児が園長に暴行され死亡した事件は当初、死亡時の状況を確認せず、司法解剖の結果、「SIDSの疑い」と診断されていた。同会の櫛毛冨久美事務局長は「医師によって解剖の精度が違う。いいかげんな解剖は逆に、ずさんなSIDS診断にお墨付きを与えかねない」と解剖の実施だけでなく、その精度を向上させる必要性を力説する。
 文部科学省の研究班が昨年3月にまとめた報告書によると、大学の法医学教室など全国31機関から寄せられた122のSIDS診断例のうち、11例が解剖の精度に問題があり、75例は生前の病歴や死亡状況の確認が不十分だった。
Posted by Naoko at 03:05 | EDIT | コメント (0) | トラックバック (0)| 気になるニュース
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